「世界は代償でできている」 作家としての壇蜜さんが描き出す独特の世界観

タレントで作家の壇蜜さん(撮影・齋藤大輔)

タレント、コメンテーター、ラジオパーソナリティーとして、多方面で活躍する壇蜜さん。実は作家としての顔も持ち、これまでに13冊の本を出版しています。2019年10月には、初の小説集となる『はんぶんのユウジと』(文藝春秋)を上梓しました。どのような経験が作家としての壇蜜さんを形作ったのか、作家としてどのような考えを持っているのか、壇蜜さんに話を聞きました。

菓子職人に遺体解剖助手!? いろいろな仕事を経験

ーーたくさん本を書いていますが、小さいころから文章を書いていたのでしょうか?

壇蜜さん(以下壇蜜):小学校から通っていた昭和女子大学の付属校では、小学校後半から中高6年間、400字詰め原稿用紙1枚を15分で書く練習をしていました。それができない子はダメだと言われて。そういう意味では書くことに慣れていたのだと思います。

ーー都内の大学を卒業した後は、和菓子店に勤務したり、銀座のホステスを経験されたりしていますね。

壇蜜:英語の教職課程を取っていたので、外資系の企業に勤められたらいいなと思っていたのですが、20代前半はガッツがなかったのだと思います。その頃は実家暮らしということもあり、仕事に対して打ち込むということはなく、乗り気じゃない日々を過ごしていました。

そんななか、和菓子店で働いていたのですが、母と一緒に和菓子のお店を開こうという話になったんです。そこで開業の準備をしていたのですが、開業をサポートしてくれた恩人が亡くなってしまって…。それがきっかけで、エンバーマー(遺体衛生保全士)の資格を取って、大学病院の遺体解剖助手になりました。

ーー遺体解剖助手ですか。すごい方向転換でしたね…。

壇蜜:これまでは与えられたことをそれなりにこなしているという感じでしたが、遺体解剖助手は気持ちを込めて仕事をしていました。あっという間に先生の補助をひとりでできるぐらいまでに成長できたんですね。

親が歓迎しないような仕事ばかり結果が出ちゃったんです。銀座のホステスの売り上げがお店で上位になったり、遺体解剖がやたらと早かったりとか。

遺体解剖助手と芸能界、どちらを選ぶか悩んだという (撮影・斎藤大輔)

ーーそんな壇蜜さんが、どのようにして芸能界に入ることになったのでしょうか?

壇蜜:解剖助手をしているときに、東京ゲームショーのキャンペーンガールをしたことがあったのですが、そのときの履歴書が余っていたので、「SPA!」の公募型グラビア企画に応募しました。20代も終わりの方だったので、記念にグラビア写真を撮ろうと思って。それでグラビアアイドルになったんです。行き当たりばったりでした(笑)

ーー遺体解剖の助手とグラビアアイドルをかけもちしていた時期があります。かけ離れた世界の仕事だと思いますが、共通点もあると聞きました。

壇蜜:仕事のスピード感が早いということですね。遺体の解剖は、できるだけ早く遺族のもとにつかせなければならないので、解剖した臓器をとにかく早く先生に渡すことを考えていました。

グラビアアイドルの仕事は、時間が有限なので、スタッフさんが男ばかりで嫌だとか、今日のメークが気に入らない、ということは言っていられません。スタッフみんなが仕事をしやすいように、どんどん次に進めます。そこは遺体解剖と同じ感覚でしたね。

ーーでは、グラビアアイドルの仕事が遺体解剖の仕事に与えた影響は?

壇蜜:研究室の先生が週刊誌の「FRIDAY」を読んでいて、私のグラビアが出ると、「これうちの部下です」と他の先生に自慢するんです。DVDも同じように自慢してくださいまして。恥ずかしかったのですが、嬉しかったですね(笑)

「男女は同じ」は本当に正しいのか?

ラジオでは共演者に配慮して声のトーンも変えている(撮影・斎藤大輔)

ーーそんな壇蜜さんですが、いまでは芸能界で多彩な活躍を見せております。特に情報番組などで事件や事故などについて納得感のあるコメントをしている印象です。何か心掛けていることはありますか?

壇蜜:サウナに行ってお客さんと話しています。サウナにいる人は私の見ていない世界を絶対に知っているので。芸能人は放っておくと孤立したり、孤高の人になってしまうので、適度にみんなと一緒であるということを意識するようにしていますね。

ーー一方で、「サンデー・ジャポン」(TBS系)では、絶妙なコメントをしたり、カメラ目線できれいなお姉さんの役を演じたりしていますよね。

壇蜜:女子校を経てホステスをすると大体こうなります。「ごっこ」みたいな感じなんです。「今は聞き役なんだな」とか「冗談言わなきゃいけないポジションなんだな」とか。社会勉強のためにホステス勤務を勧めていますけど、「勧めるのは止めなさい」と言われますね(笑)

女子校時代から自立していたいタイプだった (撮影・斎藤大輔)

ーー女性を求められた時には女性を、知性を求められた時には知性をというスタイルですね。

壇蜜:なかなか若い世代の女性には勧められないですね。「男女は平等、何でも一緒にやりましょう」の世界で育った彼女たちが、私の考えに合わせることは非常に難しいと思います。強要はできないけれど、やってみて損はないといったところでしょうか。

ーー男女平等の時代になりましたが、一方で、男性を立てたり頼ったりすることも許されなくなっている気がします。そのことでかえって息苦しくなることもあるのではと。

壇蜜:時代が変われば考え方も変わるんだと感じています。今はそういう時期なんだろうと。ただ、今のままで生きていくことは、若い世代の彼女たちにとって厳しいのではとも感じます。このタイミングで助言をしても数と勢いで圧倒されてしまうので敢えてしませんが、疲れた時、頑張ることをやめたくなった時には、私の本やブログにアクセスしてほしいです。

作家・壇蜜が描き出す世界

2016年に『光ラズノナヨ竹』で小説デビュー(撮影・齋藤大輔)

ーー壇蜜さんの作家デビューは、2013年末に出版された『はじしらず』(朝日新聞出版)。美しいセミヌードに壇蜜さんのエッセイが添えられています。

壇蜜:ブログ本を出そうという話もあったのですが、せっかくだから、エッセイと写真を一緒に載せようということで、この本になりました。

ーー写真の横には「セックスのときは尽くす」など、刺激的なコピーが並んでいますね。

壇蜜:コピーについては担当編集者がつけたのですが、エッセイ自体は自分で書きました。写真に合った、素の自分に近い内容で書きました。ゴーストライターなしで、まずは書くことの訓練をしようと思って。

ーーこの頃すでに小説を書きたいと思っていたのですか?

壇蜜:はい。ただ、この時点では「小説家になりたい」と宣言することは絶対にやめようと思っていました。タレントが小説を書くなんて、と言われて話が流れてしまうのは怖いなと。

ーー今年発売された『死とエロスの旅』(集英社)は、宗教が異なる地域の死生観がテーマとなっていますが、芸能界に入って壇蜜さんの死生観は変わりましたか?

壇蜜:死に対する概念が変わりましたね。映像も執筆も残り続け、完全に死滅しない世界に入ったということです。芸能界は「死」とはかなり遠い世界だと感じています。油断していると「死」という意識から遠のきそうになります。

そういうときは、さきほども話しましたが、サウナに行きます。サウナに行っていろんな世代の方と話している時が、現実だと思えるんです。死生観をニュートラルに戻す作業でもあるんだと思います。

亡き夫とその家族を巡る5つの物語が収められた小説集(撮影・斎藤大輔)

ーーそして10月、初めての小説集となる『はんぶんのユウジと』を刊行します。作品では、結婚後2カ月で亡くなってしまった夫の弟との関係を描いています。

壇蜜:人間には「代償」を求めるという欲求がありますよね。手に入らないものを代わりのもので満たすことですが、私は代償が人間らしくて好きなんです。破壊とか擬態よりも代償は、自分勝手だけど憎めないというか。

前作『光ラズノナヨ竹』も今回の作品も、母親の恋人とまんざらでもない関係になったり、死んでしまった夫の弟と恋仲になったりと代償の関係を描いています。代償は生々しいけど、実はみんな求めていることなのではないかと思うんです。だって、ライブに行けなかったらCDを買うじゃないですか。本物を求めて手に入らなかったら苦しくなってしまいますよね。だからこそ、これで代わりにする、満足感を得るという気持ちが大事なんだと思います。

ーー確かに代償という考え方は大事なのかもしれません。

壇蜜:代償は日常的にやっていますよね。実家の猫が亡くなって母が落胆したときに、別の猫をあげたのですが溺愛しています。世界は代償でできているとも感じていて、健全な欲望の満たし方なんじゃないかと思います。

自然界において、人間は結局、代償なんです。まさにそれが輪廻転生で「人間」という枠の中でメンバーがどんどん変わっていく。魂が肉体に宿って代償になっているだけなのではないでしょうか。

ーー最後の質問です。DANROは「ひとり時間」をテーマにしたウェブメディアですが、壇蜜さんにとっての「ひとり」とは?

壇蜜:ひとりの時間は絶対に必要です。サウナもそうですし、ひとりで電車に乗ってふらっとどこかに行ったりもします。送り迎えもなく、携帯電話とお金だけを持ってどこかへ行くのが好きです。

結婚しましたが、彼も私もひとりの時間がないとダメだから、彼は赤羽に、私も今まで通り世田谷に住むことにしました。結婚しても一緒に生活をしない人たちもいるでしょうから、私たちもそれでいいのかなと。

ーー似たもの同士なのかもしれませんね。そういう意味では、『壇蜜日記』も『東京都北区赤羽』も物事のディテールを紹介しているところがそっくりです。

壇蜜:彼はかなり取材をしていますが、私は自分で考えて書いたり、人から聞いた話を細かく書いています。すべて被っていたら私の本が売れなくなるじゃないですか(笑)。

「ひとりの時間を大切にしたい」と語る壇蜜さん(撮影・斎藤大輔)

 

TAGS

この記事をシェア