タトゥー規制は「個々の店が判断すべきこと」 銭湯活動家が考える規制の在り方

風呂おけを持つ”銭湯活動家”の湊三次郎さん(撮影・佐藤慈子)

ひとりひとりが考える未来」は、たばこ、タトゥー、自動運転など意見が分かれるテーマについて多様な考え方を伝え、ひとりひとりの読者と共に、日本の未来を考える特集です。

東京五輪・パラリンピックが開催される2020年。訪日外国人の増加が予想されますが、公衆浴場などでのタトゥー(入れ墨)規制について、さまざまな議論が交わされています。

「日本から銭湯を消さない」をモットーに、廃業寸前だった銭湯の経営を引き継ぎ、再生させた「銭湯活動家」の湊三次郎(みなと・さんじろう)さんは、2018年8月に経営する4つの銭湯のうちのひとつ、「サウナの梅湯」(京都府京都市)の2階をタトゥースタジオに貸し出し、話題になりました。タトゥー規制について湊さんは「業界全体ではなく、それぞれの店の判断に任せるべき」だと話します。

「定着したお客さんが離れるのではという不安はあった」

――銭湯の2階をタトゥースタジオに貸したのはなぜですか。

湊:梅湯を引き継いでから3年が経ち、徐々に軌道に乗り始めたこともあって、倉庫として使っていた2階を改装し、テナントを募集したんです。最初は銭湯に来た人が利用しやすい、マッサージ店とか床屋が入ってくれたらいいいなあ、とか考えていたんですよね。ちょうどその時、梅湯によく来ていた彫り師の恭維(きょうい)くんと話すようになって。全身にタトゥーが入っていて、いかつい印象だったんだけど、思い切って声をかけてみたら、謙虚だし、心優しい青年。しかも僕と同い年だったんです。

聞けば、5年間の修業を終えて彫り師として独立するタイミングらしく、「伝統的な和彫りの良さを若い人に伝えていきたい」っていう思いにも共感し、「こんな人が出店してくれたら面白いな」って僕から話を持ちかけました。そこからすぐに話が進んで、2018年8月、2階にタトゥースタジオ「狐や」がオープンしました。そんな経緯なので、タトゥー規制に対するアンチテーゼでも何でもなく、僕と恭維くんの友情からです。

――お客さんや周囲の反応は気になりませんでしたか。

湊:そこは悩みました。徐々にお客さんが定着してきたのに、タトゥースタジオが入ることで「離れていってしまうのでは」という不安はありました。知らない人が結構多いんですが、公衆浴場の中でも銭湯は基本的にタトゥーを禁止していません。「市民の公衆衛生の維持と向上」という大義があるので、タトゥーを入れているというだけでは入店を断っていないのです。むしろ地域に密着した商売のため、昔から入れ墨をした人も多く出入りしていました。もちろん梅湯もタトゥーOKです。

日が暮れ、ネオンがともされた「サウナの梅湯」(撮影・佐藤慈子)

とは言え、まだまだタトゥーに悪いイメージがあるのは否めません。僕も初めて銭湯でタトゥーをびっしり入れた人と遭遇した時、恐怖で震えましたからね(笑)。その後、あちこちの銭湯に通ううちに何度もタトゥーをした人と一緒になったけど、別に何か言われるわけでも、威張られるわけでもなく、ただ一緒にお風呂に入っているだけ。今では、「タトゥー=悪」という偏見を持っていた自分を反省しています。それもあって、梅湯は「タトゥーの有無で個々の人格を否定したり、差別したりしない」という姿勢でやっています。

もちろん、お客さんを不安にさせないような対策はしています。恭維くんには絶対に感染症が起こらないように徹底した衛生管理をお願いし、施術を受けたお客さんの入浴も1週間はお断りしています。タトゥーの有無に関係なく、マナーの悪い人には注意したり、場合によっては入浴をお断りしたりすることもあります。そして、タトゥースタジオが入ることになった経緯やタトゥーに対する見解をブログで公開し、店内にも貼り出しました。

――実際にオープンした後、どんな反応がありましたか。

湊:拍子抜けするほど、否定的な反応はありませんでしたね。「何か言ってくる人がいたら、やってやるぞ!」くらいの意気込みで、「梅湯 タトゥー」とか入れてエゴサ(エゴサーチ=自分で自分のことを検索)したんですけど、全然なかった。僕らのような20代、30代ってタトゥーに対しての偏見がなくなってきていて、ファッションやアートとして捉えている人が多いんだと思います。

さらに、梅湯を「自分のお風呂」として使ってくれている常連の高齢者の方々は、お風呂に入れればいいから2階にどんな店が入っていても、気にしていない感じですね。さっきも言った通り、梅湯はタトゥーや入れ墨を禁止していないし、かつての遊郭街という場所柄もあってか、全身和彫りの人もいます。観光地なのでタトゥーをした外国人も来ます。経営を引き継いでからこれまで、タトゥーを入れた人が大きなトラブルを起こしたことはありません。

タトゥー規制について語る湊三次郎さん(撮影・永井美帆)

偏見をなくすためにも「タトゥー当事者が発言を」

――銭湯ではタトゥーを禁止していませんが、スーパー銭湯や温泉などでは規制しているところが大半ですよね。

湊:僕はそれでいいと思っています。個々の店が判断すべきこと。今、東京五輪・パラリンピックを前に国を挙げて、銭湯だけでなくスーパー銭湯など公衆浴場全体で「タトゥー規制を緩和しよう」という動きがありますが、少し疑問を感じています。どうしても日本人はタトゥーを見ると「暴力団」や「やくざ」を連想してしまう人が多いのは事実です。

まだタトゥーに対する悪いイメージが残るなか、一斉に規制緩和に乗り出してしまうのはどうなんでしょう。もちろん偏見や差別はなくすべきだけど、「外国人なら」「シールで隠せば」という条件付きで認めるのもご都合主義というか、根本的な解決にはならない気がします。暴力団の組紋が入っているなど、明らかに「そっちの人」と分かる場合はお断りしないといけませんけどね。

――今後、タトゥー規制はどのようになっていくといいでしょうか。

湊:タトゥーに対する偏見をなくし、それぞれの店の判断を尊重して、規制する所と認める所があっていいと思います。そして、タトゥーを入れている人や彫り師など、当事者たちがもっと発言して欲しいですね。僕も含め、タトゥーをしていない人が何だかんだ言ったところで説得力がないじゃないですか。そうした議論を5年、10年と続けることで、少しずつ世の中が変わっていくと信じています。

例えばLGBT(性的少数者)だって、何十年も前から議論が続けられていて、ようやく認識が広がってきました。そして、タトゥーを入れている人はぜひマナーを守って、紳士的な振る舞いをしてください。そうやってタトゥーをしている人も、周りの人も、どちらも意識を変えていくことが大切だと思っています。

受け付けではさまざまな入浴グッズを販売している(撮影・永井美帆)

プロフィール
湊三次郎(みなと・さんじろう)
銭湯活動家。1990年静岡県浜松市生まれ。京都の大学に進学後、「銭湯サークル」を結成して全国の銭湯を巡るかたわら、梅湯でアルバイトとして働く。卒業後はアパレル企業に就職したが10カ月で辞め、廃業予定だった梅湯の経営を引き継ぐ。現在、梅湯のほかに都湯(滋賀県大津市)、容輝湯(同)、源湯(京都府京都市)を経営し、「次の目標は東京進出」と語る。

 

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