『ブレードランナー』が描いた「2019年11月」を巡る旅・前編(エンタメひとり旅)

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に期間限定で展示されている「ブレードランナー」に登場する乗り物ポリス・スピナー(撮影:喜久知重比呂)

映画が想像した未来。『ターミネーター』(1984)、人間と機械が戦争し、未来からやって来た殺人ロボットが人間を襲う。設定は2029年。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(19896)、空を飛ぶスケートボードやサメがスクリーンの外に飛び出す映画が上映されている町が登場。設定は2015年。スタンリー・キューブリック監督の1968年の名作『2001年宇宙の旅』はタイトル通り、19年前。

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に期間限定で展示されている『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン(撮影:喜久知重比呂)

1982年に公開されたリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』。この映画は荒廃した近未来が舞台。たくさんのクリエイターやアーティストに影響を与え続けるSF映画の金字塔。映画のもとになったのは、1968年のフィリップ・K・ディックの小説『電気羊はアンドロイドの夢を見るか?』。近未来、環境汚染で人類の大半は宇宙の植民地に移住。そこで労働や戦闘に従事していたのは、優れた身体能力と知性を持つレプリカントと呼ばれる人造人間。奴隷のような扱いを受けていたレプリカントは反乱を起こし脱走。地球に帰還した4人のレプリカントをハリソン・フォード演じる捜査官デッカードが追う。

映画が撮影されたロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

映画の舞台となったのは近未来のロサンゼルス。しかし、今では近未来ではなくなった。映画の設定は、2019年の11月。2020年を迎え、時代がまた映画を追い越した。映画が公開されたのは1982年。37年後を描いた近未来は今なのだ。私は、映画と同じ2019年の11月に『ブレードランナー』の聖地を巡った。そこで目撃したのは映画のあの有名なシーンだった。

映画では環境汚染によって酸性の雨が降り続ける暗いロサンゼルスが描かれている。今も排気ガスなどで大気は汚染されているが、映画ほど悪い状況ではない。しかしながら環境問題は深刻な今、映画もまだ先を予言しているのかもしれない。1981年、ワーナーブラザーズのスタジオには巨大な街のセットが作られた。リアリティを追求し、ロサンゼルスのダウンタウンで実際の建物を使っての撮影も行われた。

ブラッドベリー・ビルディング ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

映画とは違う顔を見せる歴史的建造物ブラッドベリー・ビル

ロケ地として最も有名なのが、ダウンタウンにあるブラッドベリー・ビルディング。たくさんの映画やミュージックビデオの撮影が行われてきた建物。『ブレードランナー』では、レプリカントを作っているタイレル社の遺伝子設計技術者セバスチャンが住んでいた場所として登場。

ブラッドベリー・ビルディング ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

ブラッドベリー・ビルディングは、1893年に建てられた5階建てのオフィスビル。ビクトリア様式で、ガラス張りの天井に続く吹き抜け、大理石の階段、黒いアイアンと素焼きのテラコッタ・レリーフの壁が印象的な建物。

ブラッドベリー・ビルディング ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

映画では、天井のガラスの向こうを芸者風の女性の広告を映す気球が飛ぶ。2階から上はオフィスになっている。1977年には国の歴史的建造物として指定され、子供達も見学に訪れる。

ブラッドベリー・ビルディング ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

撮影はオフィスに人がいなくなる夕方6時から朝6時までの間に行われた。歴史ある建物に、トラックで運んだガラクタをばら撒き、人工の雨を降らし水浸しにしたという。そのおかげで、他の映像作品とはまったく違う雰囲気のブラッドベリー・ビルディングが映画には登場する。『ブラック・レイン』の大阪が近未来の街か何かのようにまったく違って見えたように、監督のリドリー・スコットは誰にも出せない雰囲気を作る天才である。

映画にも登場するエレベーター ブラッドベリー・ビルディング ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

この場所は以前にも訪れたことがあるが、1階にコーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」がオープンし、垢抜けた雰囲気になっていた。近年のコーヒー・ブーム。映画のなかでは、主人公デッカードのアパートのキッチンの隅にコーヒー・メーカーらしきものが見えるが、コーヒーは登場しない。その代わり映画に何度も登場するのが、タバコ。主人公デッカードにレプリカントと疑われ、尋問されるヒロイン・レーチェルはその間ずっとタバコを吸っている。タバコは作品の雰囲気とピッタリで、ノワールな雰囲気を醸し出す役目を果たしている。当時、タバコが今ほど問題視されるようになるとは想像できなかったようである。

街で遭遇した『ブレードランナー』を想起させる光景

さらに映画にはたくさんの本や紙焼きの写真が登場する。37年前、紙の電子化は想像できなかったようである。

ラスト・ブック・ストア ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

ダウンタウンには本がなくなっていくことを皮肉った「ラスト・ブック・ストア(LAST BOOK STORE)」という古書を売るおしゃれな書店が2005年にオープンし、観光スポットにもなっている。映画『ゴーン・ガール』(2014)に登場する。

ミリオンダラー・シアター ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

映画には、ブラッドベリー・ビルディングの通りを挟んで向かいにある建物も登場する。撮影ではブラッドベリー・ビルディングの入り口には発砲スチロールの巨大な柱が設置された。そのセットの中をハリソン・フォードが歩くシーンで背後に見えるのが、ミリオン・ダラー・シアターという古い劇場。精密なスペイン調のデザインが印象的な、1917年に作られた歴史ある建物。1978年に国の歴史登録財に認定された。今は劇場が閉館しているため中に入ることはできないが建物を眺めているだけでも価値がある。

グランド・セントラル・マーケット ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

この2つの建物のすぐ近くにあるのが、グランド・セントラル・マーケット。たくさんの人で賑わう観光スポット。様々な食材を売られ、食事もできる。ラーメンや寿司など日本食のお店などがたくさん並んでいる。

グランド・セントラル・マーケット ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

映画には様々な言語が飛び交う、屋台が並ぶ通りが登場する。ハリソン・フォード演じるデッカードが麺に添える卵を4つ注文すると、日系人俳優ロバート・オカザキ演じる屋台のおじさんが日本語で「フタツデジュウブンデスヨ」と言う印象的なシーン。ハリソンは箸を使って麺を食べる。その後の日本食ブームを予言していたかのようなシーンである。マーケットの食堂では器用に箸を使う人を多く見かけた。

ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

同じくダウンタウンにあるロケ地が、ユニオン・ステーション。1939年開業された全米を結ぶアムトラックなどが発着するターミナル駅。駅の入り口とは思えない建物が特徴的。

ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)
ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

ここは数々の映画の撮影が行われた場所。『ブレードランナー』では、ロサンゼルス警察の建物として登場する。

ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

アール・デコ調の照明や窓から差してくる光が美しい。駅の中央あたりには靴磨きスタンドがあるが、映画にも靴磨きが登場する。

ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

撮影が行われた場所だが、現在は立ち入りができず、映画は写真とは逆方向から撮られている。

ユニオン・ステーション ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

写真を撮っていると、警官に向かって怒鳴り声を上げる男性がいた。2人の警官がヒスパニック系の青年に手錠を掛けていた。近くにいた人に聞くと、青年は不法入国であることが見つかってしまったという。男性は取り締まる警官に抗議していたのだ。

トランプ大統領の厳しい移民政策。青年は夢と希望を抱いてようやっとロサンゼルスにたどり着いたのだろう。見た目は同じ人間でありながら、アメリカには住めない。不謹慎かもしれないけど、映画に登場するレプリカントとそれを取り締まるブレードランナーの姿がダブった。

後編に続く。

 

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