『ブレードランナー』が32年前に描いた「2019年11月」・後編(エンタメひとり旅)

(撮影:喜久知重比呂)

2020年、映画の世界は過去になった。1982年に、当時の近未来2019年11月描いた映画『ブレードランナー』。その舞台となった場所を2019年11月に巡った。そこで、映画のあのシーンに出会った!

前回 紹介したダウンタウンの撮影場所からロサンゼルス市内にあるピーターソン自動車博物館へ。SF映画に登場する乗り物が期間限定で多数展示されている。映画『ブレードランナー』に登場する乗り物も多数展示されている。

HOLLYWOOD DREAM MACHINES  VECHICLES OF SCIENCE FICTION AND FANTASY ピーターソン自動車博物館にて 今年6月まで開催中(撮影:喜久知重比呂)
ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に展示されている『ブレードランナー』のポリス・スピナー(撮影:喜久知重比呂)

青い車輪がない乗り物は、「ポリス・スピナー」と呼ばれる空を飛ぶ未来のパトカー。垂直に浮上して、酸性の雨が降るロサンゼルスの暗い空を飛ぶ。助手席でハリソン・フォードが箸でヌードルを食べるシーンが印象的だ。当時の撮影は実物大のものをクレーンで吊り下げて行われた。現在、ドローンの技術が進み、空を飛ぶ車の開発も進められてはいるが、映画のような車が登場するのは、まだまだ先のようだ。

リドリー・スコット監督は独自の世界を作るためにプロダクション・デザインには妥協しない。『エイリアン』(1979年)ではH.R.ギーガーと組み、不気味で凶暴で美しい映画史上に残る宇宙生物を作り上げた。リドリー監督の映画に登場するモノたちはアート作品となる。『ブレードランナー』でリドリー監督がデザインを依頼したのが、シド・ミード。彼のコンセプトを気に入ったリドリー監督は、映画に登場するあらゆる工業製品のデザインを依頼した。

筆者所有のシド・ミード特集が組まれたSF雑誌『スターログ』1983年4月号(現在は休刊)

デザインの巨匠シド・ミード。彼だけが、ヴィジュアル・フューチャリストと呼ばれる。昨年は東京で原画展が開かれ3万人以上が来場するなど、世界中に多くのファンがいる。フォードで車のデザインに携わるなどした後に独立。その後、ハリウッド映画『スタートレック』(1979)、『トロン』(1982)、『エイリアン2』(1986)、日本でも『ヤマト』や『ガンダム』のアニメなどで近未来デザインを提供してきた。2019年9月に引退を発表したばかりだったが、年末に86歳で亡くなった。生前、車のデザインが一番好きだったと語っている。

「シド・ミード、安らかに。あなたのアートは時代を越えて生き続けます」
テスラのイーロン・マスクはミードの死を悼むツイートをした。

昨年、近未来的なデザインのピックアップトラックを発表したテスラ。そのデザインは、映画『ブレードランナー』を意識したデザインになると噂されていた。発表されたトラックはSF映画に出てきてもおかしくないデザインだ。

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に展示されている『ブレードランナー』のデッカード・セダン(撮影:喜久知重比呂)

空を飛ばないデッカード・セダンと呼ばれる赤いセダン。ハリソン・フォード演じる主人公が乗るその車がアパートへと向かうシーンで登場するのが、ロサンゼルスのダウンタウンにあるセカンドストリート・トンネル。『ブレードランナー』以降も、『ターミネーター』(1984)、『デモリションマン』(1993)、『ガタカ』(1997)などSF映画に度々登場する。SF映画、特に近未来ものと相性がいい。監督たちは、なぜこのトンネルで撮影を行うのか? それは、トンネルが放つ独特の光にあった。

セカンドストリート・トンネル ロサンゼルス・ダウンタウン(撮影:喜久知重比呂)

実際に走ってみた。トンネルの天井の緑の照明と壁の白い陶製のタイルに車のライトが反射して、その効果が出るようだ。『ブレードランナー』では青白い光が印象的だった。

実際の2019年11月 ビルの巨大モニターに映し出されていたのは……

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に期間限定で展示されている『ブレードランナー2049』に登場するポリススピナー(撮影:喜久知重比呂)

2017年、続編『ブレードランナー2049』が公開された。この映画には日本人が関わっている。2049年版のポリススピナーをデザインしたのはイギリスのVFX会社DNEGにいた田島光二さん。彼は看板などのデザインも手掛けた。

筆者所有『ブレードランナー』デッカード・ブラスターの水鉄砲

さらに、映画に登場する小道具には日本のものが採用されている。それは、1作目で唯一シド・ミードのデザインが採用されなかったもの。主人公デッカードがレプリカントを処分する時に使う「デッカード・ブラスター」と呼ばれている銃。シド・ミードのアイデアは近未来的過ぎるという理由で採用されず、小道具主任だったテリー・ルイスが製作した。

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に期間限定で展示されている『ブレードランナー』に登場するブラスター(撮影:喜久知重比呂)

二つの引き金、ライフルとリボルバーを合体させて作られたためピストルだけど分厚い、リドリー監督の求めるハードボイルドな要素を醸し出している。これも映画のファンをはじめデザイナーやアーティストたちに愛されているデザイン。日本の映画ジャーナリスト中子真治さんが経営する映画グッズなどを製作販売する「飛騨高山留之助商店」。そこの精巧なレプリカは『ブレードランナー2049』でそのまま使われた。日本の影響が多く登場する1作目。続編では日本人がスタッフとして関わっているのは嬉しいことだ。

ロサンゼルスのピーターソン自動車博物館に期間限定で展示されている『ブレードランナー2049』に登場する小道具(撮影:喜久知重比呂)

リドリー監督が創造した近未来のロサンゼルス・ダウンタウンは、東京・新宿歌舞伎町にインスパイアされている。映画には日本語の看板があちこちに登場する。そんな都市のシーンで最も印象的なのが、2019年ロサンゼルスのビルの大きなスクリーンに移しだされる「強力わかもと」の広告映像。芸者風の女性と近未来の風景が不思議な雰囲気を出している。映画監督になる前は数々のコマーシャルを制作したリドリー監督らしい映像である。

近年、ダウンタウンには多くのヴィジュアル広告があり、年々スクリーンは大きくなっている。1997年にはステープルズ・センターが作られ、バスケットボールの試合やグラミー賞の授賞式が行われる華やかな街に変貌した。2019年11月はどんな風になっているのだろうと、ビルを見上げ、思わず声をあげてしまった。なんと、あのシーンが再現されているのだ。

ロサンゼルスのダウンタウンの風景(撮影:喜久知重比呂)

これはビジュアル広告の会社が募集のために作ったもの。2019年11月のロサンゼルス、車の排気ガスなどで空気は汚れているものの、38年前に映画『ブレードランナー』が想像したような状況にはなっていない。

昨年7月には、レプリカントのリーダーを演じた名優ルトガー・ハウアーが闘病の末に亡くなった。年末にはデザイナーのシド・ミードも旅立った。映画の世界観を唯一無二のものにした立役者の2人が亡くなったのは、奇しくも『ブレードランナー』の描いた近未来、2019年だった。

 

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