「アート作品を創作できるカフェ」が欲しくて自分で作った女性アーティスト

「創作空間cafeアトリエ」を営む安田佳那子さん(撮影・西島本元)

女装する小説家・仙田学が、女性経営者の起業ストーリーや人生に迫るこの連載。今回は、アーティストが作品を創作できるカフェを経営する安田佳那子さん(29)に話を聞きました。

大阪の本町にある「創作空間cafeアトリエ」。アーティストだけでなくブロガーやウェブ制作の仕事をしている人、ガンプラを組み立てている人など、さまざまな人が訪れます。そのほとんどは10~20代の女性だといいます。なぜこのようなカフェをオープンしようと思ったのでしょうか。

絵を描くのが好きだった

「創作空間cafeアトリエ」の店内。筆記用具などを貸し出している(撮影・西島本元)

ーーどんなきっかけで起業されたんですか?

安田:もともと絵が好きで、学生時代から絵を売ってお小遣い稼ぎをしていたんです。私は外で仕事をするほうがはかどるタイプで、カフェで仕事をすることが多かったんですけど、落ち着いて長時間絵を描けるお店がなかなかなくて。それで、自分で作ろうと思いました。

ーー子どもの頃から絵は好きだったんですか?

安田:母が絵の上手い人で、叔母が画家だったこともあり、絵を描くのは普通という環境で育ちました。風景や生き物の絵をよく描いていました。生き物が好きで、家の庭でダンゴムシやトカゲと遊んでいるような子どもだったんですよね。学校では気の合う友達がいなくて成績も悪く…でも絵を描くと褒められたので、余計にのめりこんでいったんだと思います。

ーー絵がすべてだったんですね。

安田:勉強も好きでした。実は2歳のときに両親が離婚して、父親に引き取られたんです。すぐに父親は再婚して、新しいお母さんができました。その継母との関係が、中学に上がる頃からよくなくなって、部屋に引きこもっていた時期がありました。そこで猛勉強して成績が上がって、学年首位になりました。一気に秀才扱いされて、周りの子たちに勉強を教えたりしていました。

一方では美術部に入って、顧問の先生から絵画の基礎をしっかり教えてもらいました。高校に進んでもそんな生活が続き、進路を決める時期になると芸大に行きたいと思うようになりました。でも、進学しても仕事に結びつけるのは難しいと思うと、そのためのお金を出してほしいと親に言えず、理系の大学を選びました。

「本当にやりたいことをやったほうがいい」

インタビューに応じる安田佳那子さん(撮影・西島本元)

ーーそのタイミングで理系に変わったのは意外ですね。

安田:理系の勉強は好きだったんです。大学では地層の勉強をしていたんですけど、大きな発見がありました。地球には46億年の歴史があって、「今」はその一部を切り取ったものなんだという認識です。宇宙や恐竜のことに興味を持ったのもその頃のことで。

それでも絵は描き続けていて、マンガやアニメの絵を模写していました。ボーカロイドの絵をヤフオクに出したら800円で落札されて、お小遣い稼ぎで出しまくったりしていました。卒業後は福井県にある恐竜博物館に勤めたくて、就活をしていたんですがうまくいかず、水質調査の会社に就職しました。

ーーどんなお仕事をされていたんですか?

安田:工場排水の水質調査や、機械の点検をしていました。でも長くは続きませんでした。入社して1カ月目に、初めて生みの母親に会ったんです。お母さんはエステティシャンとして成功して、お金持ちで、きれいでした。そのお母さんから「本当にやりたいことをやったほうがいいよ」って言われたんです。それがきっかけで、ずっとカフェをやりたかったんだって思い出しました。大学生の頃からカフェが好きで、年間100軒くらい訪れて写真を撮ってブログにアップしていたんですよね。

それで仕事を辞めて、京都のレストランの厨房でアルバイトを始めました。居酒屋やティッシュ配りなど、お金のためにいろんなバイトを転々と、3年間で15種類くらいのバイトを経験しました。イラストの仕事も続けていて、異業種交流会に行って営業をかけて、自分で仕事を取ったりして、徐々にそれだけで食べていけるくらいにはなっていたんです。

ーーお母さんとの出会いは大きかったんですね。

安田:いまも仲良しです。実母だけではなく、継母とも仲良くなりました。自分が働くようになってから、同じくらいの年齢で2歳の子の母になることが、どんなに大変なことかが想像できるようになったんですよね。

ーーその他にも起業のきっかけとなったことはありますか?

安田:心斎橋のアニメバーの経営者の方に出会ったことも転機になりました。自分もお店を持ちたい、と強く思ったんです。事業計画書の書き方や融資のやり方は、その方から教えてもらいました。

喫茶店経営をしながら恐竜の絵を描きはじめた

インタビューに応じる安田佳那子さん(撮影・西島本元)

ーー具体的にはどんなふうにお店作りを進めたのですか?

安田:2017年1月に、お店を始めることをツイッターで公表しました。クラウドファンディングで100万円集めて、それを元手に380万円を借入れて、物件を決めて内装工事をしました。10月にオープンした当初は、ツイッターのフォロワーさんがたくさん来てくれたんですけど、11月には客足が落ちて…。2カ月間ほどは店を畳むかもしれないくらい追い込まれたんですけど、ツイッターで集客したり、あとはお客様が写真を投稿してくださって、それを見て来てくださる方が増えたんです。

ーーツイッター効果すごいですね。イラストの仕事も並行してされていたんですか?

安田:お店を始めて3カ月目くらいに、恐竜の絵を描きだしたんです。お客様が絵を描いている姿が楽しそうで、それを見ているうちに、好きな絵を描きたいなって。

それで、墨で恐竜を描いてみたらカッコよくって。写真に撮ってツイッターに投稿したら反響が大きくて、カナダの研究者の方から絵を買いたいと連絡があったり、テレビ出演や百貨店の物販の仕事が舞い込んできたりしました。さらに、ブログが出版社の目に留まり、「絵本を描いて出版しないか」という連絡がきました。

安田さんがイラストを担当した絵本。アーティスト名は「CAN」(撮影・西島本元)

ーー『6600万年前……僕は恐竜だったかもしれない』(主婦の友社)ですね。

安田:子どもの頃、絵本作家になりたかったんです。形にするまでの作業は大変で、出版社とのやりとりのなかで何回も何回も描き直しました。

ーー絵本の執筆や、カフェ経営を続けるなかでどんなことを大切にされていますか?

安田:「お金」と「生きること」は別にして考えています。犬や猫も生きていますよね。お金はなくても。ということは、お金は人間が作りだしたもので、生きていくこととは別のものなんです。何億年後かに、地球も太陽もなくなります。いつか何も残らなくなる。それなら、いま楽しく生きることを大切にしようと思っています。

カフェのカウンターで笑顔を向ける安田佳那子さん(撮影・西島本元)

 

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