「みんなより早く逃げた」負い目を感じて生きてきたリアリスト~私と東大駒場寮(第4回)

西さんが暮らしていた東大駒場寮の部屋

東京大学の駒場キャンパス(東京都目黒区)にあった「駒場寮」。私は、2001年に取り壊されたその寮を撮った写真集の再制作と、この連載のために、写真の使用許可を得るため、過去に取材した元寮生を探している。今回は、当時部屋の写真を撮らせてくれた元寮生のひとりで、現在は会社員をしながら、週末は中小企業診断士として活動する、西優(にし・まさる)さんを訪ねた。

現在の西優さん

独学で和裁を習得 週末は中小企業診断士の副業

――今日はお着物ですけれども、自分で仕立てたものだそうですね。着物で会社にも行かれているとか。和裁はどこかで勉強されたんですか。

西:勉強……しましたね。和裁の本を2、3冊読んで……。

――えっ、本を読んだだけ?

西:そうですね。僕は、教科書を読んで理解するのは、割と人よりも優れているんじゃないかと。まあ、東大生はみんなそうだと思いますけど。

――着物は、駒場寮とは関係ありますか?

西:いや、ないですね。個人的趣味。

――今は何の仕事をしているんですか。

西:今はキャラクターグッズメーカーで勤務してます。平日は。アニメとかゲームのグッズを作っている会社です。

小さい会社なので、何でもやってる感じなんですけど、商品の入稿データのチェックから、商品の受発注、商品を納品したり、イベント出展の段取り組んだり……とかですね。

――週末に中小企業診断士の副業をされていると聞きましたが、なぜ副業をはじめたんですか?

西:「中小企業診断士」っていう資格に合格したからです。せっかく資格取ったからもったいないな、っていうのと、中小企業診断士は、弁護士とか公認会計士とかと違って、資格を更新するのに、いろいろ実務をやっとかないと、更新ができないんですよ。

――では、お金を稼ぎたいっていうよりは……。

西:今のところは、社会貢献と、資格の更新のためにという感じですね。

「中小企業のトップはいつも孤独」西さんの中小企業診断士としてのホームページ

――どうして中小企業診断士の資格を取ろうと思ったんですか。

西:大きな理由は2つあって。まず、実家が、結構長く続いている自営業で、結局僕が事業承継をしないので、僕の両親の代で事業がなくなってしまいそうなんですね。

あとは、駒場寮の元寮生と一緒に会社を立ち上げたんですけど、それがあまりうまくいかなかったので……それで、経営の勉強をしたいなあって思って。

経営の勉強をしたいっていうのと、事業承継に何か関わりたい、っていう。

――自分の家の家業を継ぐことができなかったから、それを悔やんでいると。

西:そうですね。

――その立ち上げた会社っていうのは、どういった会社だったんですか。

西:今の勤め先と同じで、キャラクターものの会社ですね。

西さんが暮らしていた東大駒場寮の部屋
西さんの部屋の間取り図(2001年作成の写真&インタビュー集より)

入寮時には「いずれはなくなるんだろうな」と思っていた

――ご実家の経営状況については、過去のインタビューでもうかがいましたよね。「なんで駒場寮に入ろうと思ったんですか」という質問に対して、「貧民だからです」と回答されていますが、しかし、その頃は14〜15万円は仕送りがあったということでしたよね。

西:(大学が正規の学寮として用意している)三鷹寮は審査で落ちて、仕送りが減ったり、遅れたりしてきて……。2001年の夏頃は、仕送りが単調に減少していた時期でしたね。このあと仕送りがなくなるんですけど。

14〜15万と言っても月によって結構ばらつきがあって。仕送りの中から、大学院に行くためにお金を貯めていたんですけど、結局貯めたお金は実家に戻してしまいました。

西さんの1ヶ月の収支(2001年作成の写真&インタビュー集より)

――寮生活の中で、印象に残っていたことって何かありますか?

西:印象か……。温度差……ですかね……。寮運動(駒場寮廃寮反対運動)をバリバリやる人もいれば、僕みたいにちょっと、日和ってる人間もいたし。そこまで寮存続に活動的でない人間も、やっぱりいたと思います。

西さんが暮らしていた東大駒場寮の部屋

――西さんは、寮の存続はしなくていい、と思っていたということですか?

西:存続はしてほしいと思っていたんですけど、割と諦めがち……リアリストなんで。全体から見たら、僕みたいな日和がちな人間は……少数のほうだと思います。

これはとても言いづらいんですけど、入るときから、いずれはなくなるんだろうな……と思っていましたね。だから僕は中途半端な時期に入寮して、みんなより早く逃げたっていう、負い目を感じながら、20年生きて参りました。

これは、他の世代はどうだったかわからないけど……僕が東大に合格したときには、合格手続きの書類が入った封筒に、「駒場寮には近づかないでください」みたいな書類が入って送られてきたんですよね。だから、割とぽか〜んと生きてる人は、「東大がそう言うならそうなんだろう」って、ころっと洗脳されちゃうのかなあと……。

――じゃあ、西さんは駒場寮を見つけたのは、その大学から送られて来た書類がきっかけ?

西:そうですね。あとは、寮が発行してるチラシと読み比べて、「どっちもどっちだな」と思ったんですよね。どっちが正しいっていう判断はできなかったんだけど……お互い言い合ってるなと。結果的に、安いほうをとったって感じですね。

――経済的事情を優先した、ってことですね。

西さんが暮らしていた東大駒場寮の部屋

京大吉田寮の現状はうらやましい

――京都大学で明け渡しが問題になっている、東大駒場寮と同じ学生自治寮の「京大吉田寮」の現状についてはどう思われていますか?

西:社会人になって1回だけ、遊びに行ったことがありまして……そのときに吉田寮生と話す機会があったんですけども。なんか、駒場寮より、しっかりしてるなあって……。確かに、汚いとか、管理が行き届いてないとかは、あるんですけど。ちゃんと人が、各部屋に住んでて、活動しているなあって。

――京大の吉田寮は、私も昨年(2019年)の春に行ったんですけど、本当に人が結構な人数住んでいますよね。

西:駒場寮の後半は本当にさみしい感じだったので…そこが、うらやましいなあって普通に思いました。本来だったら、自分で活動して、そういう状態に持っていくべきだったんでしょうけどね……。いかんせん、面倒くさがり屋なもので…(笑)

2年生から3年生になるときに、駒場から本郷にキャンパスが移動するじゃないですか。そういうところも、僕の諦めにつながったと思いますね。

西さんが暮らしていた東大駒場寮の部屋

――今やっていることと、駒場寮での生活がつながっていることって何かありますか?

西:「駒場寮に入る」って言ったら、親にすごく反対されることが目に見えていたので、寮に入ったあとに事後報告しました。そういう、「向こう見ず」というか、「とりあえずやってみる」的な精神は、寮生に……寮生活に通ずるものがあると思いますね。

こう言っちゃなんですけど、中小企業診断士の資格取るのって、結構難しいんですよ。それに対して、「とりあえず働きながら勉強してみっか」って、気軽に挑んじゃったのは、その辺のスピリットがあるんじゃないかと……5年かかっちゃいましたけど(笑)

 

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