タランティーノ作品を巡るひとり旅、映画に登場する建物の共通点とは

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』デジタル配信中・発売中/発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(c)2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

映画の祭典・第92回アカデミー賞授賞式が2月10日(日本時間)に行われる。クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・タイム・イン・ハリウッド』は、作品賞をはじめ脚本賞、主演男優賞など10部門でノミネートされた。

先日の第77回ゴールデングローブ賞授賞式では、同作がコメディ・ミュージカル部門の作品賞、脚本賞、助演男優賞と3冠。タランティーノ監督がアカデミー賞では初めて作品賞や監督賞の栄冠を手にするのではと期待が高まる。

今回はそんなタランティーノ作品にまつわる場所をひとりで巡ることにした。すると作品に登場した建物にある共通点が見えてきた。

タランティーノがオーナーを務める映画館

ハリウッドの「ウォーク・オブ・フェイム」(撮影・喜久知重比呂)

まずはアカデミー賞授賞式が行われるドルビー・シアターのすぐ近く、ハリウッドの象徴的な映画館グローマンズ・チャイニーズ・シアター。その建物の前にタランティーノの名が刻まれている。

筆者がタランティーノ監督から頂いたサイン入りのカード

「私は映画を愛しています。あなた方も映画を愛していますよね。初めて映画を観ること、それは未知の物語への旅なんです」。昨年のカンヌ映画祭で『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(以下「ワンハリ」)を上映するにあたり、タランティーノはこんなメッセージを出してている。

そんな彼の映画愛は、映画館を経営するほどだ。1971年に母親とロサンゼルスに引っ越してきた彼が、車を運転できるようになってからずっと通っていたのが、ビバリーヒルズにある古い映画館。1929年開業の「ニュー・ビバリー・シネマ」。いわゆる名画座として営業していたが、経営不振で潰されそうになっていたところを、タランティーノが買い取り、2007年からオーナーになった。

タランティーノが所有する映画館ニュー・ビバリー・シネマ(撮影・喜久知重比呂)

その「ニュー・ビバリー・シネマ」に行ってみた。客席は228。小さなロビーには売店、『パルプ・フィクション』の大きなパネル。Tシャツやキーホルダーなど特製のグッズが販売されることもあるが、すぐに完売する。ほとんどが2本立てで、タランティーノ作品も定期的に上映されている。

上映方法にもこだわっていてデジタルではなく、35ミリフィルムでの上映を続けている。タランティーノは「生きている限り、金が続く限りこの映画館を続ける」と宣言している。

この映画館は『ワンハリ』にも登場する。マーゴット・ロビー演じる女優シャロン・テートが、メキシコ料理店に入るとき、すぐ近くの映画館でポルノ映画のプレミアが行われているというシーン。ファンの聖地となった映画館で同作を観るのは格別である。

悲劇の女優シャロン・テート「最後の晩餐」の店

メキシコ料理店エル・コヨーテ(撮影・喜久知重比呂)

『ワンハリ』に登場するメキシコ料理店は、タランティーノの映画館と同じ通り沿いにある。その名は「エル・コヨーテ」。1931年、別の場所にカフェとしてオープンし、1951年に今の場所に移転した歴史ある店。約370席あり、毎日約1000食以上が出される人気のレストランだ。

1969年8月9日、シャロン・テートはここで食事をした夜に殺害された。つまり、彼女が最後の晩餐を楽しんだ場所。シャロンは映画監督ロマン・ポランスキーの妻で、妊娠8カ月だった。タランティーノは事件当時7歳。ニュースなどで大きく報道されたから、事件のことは鮮明に記憶していたのだろう。

シャロン・テートのメモリアル・シート(撮影・喜久知重比呂)

タコスやブリトーなどメキシコ料理が美味い。料理を注文して、ウェイターに「シャロン・テートが座った席はどこ?」と、不謹慎かもと思いつつ小声で聞いてみた。「メモリアル・シートだね。あの角の席だよ」と大きな声で教えてくれた。映画の影響もあり、よく聞かれるようで観光名所になっていた。

ウエストウッドにある2つの歴史的な映画館

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』デジタル配信中・発売中/発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(c)2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.

『ワンハリ』でマーゴット・ロビー演じるシャロン・テートが自身の出演作を観に行くシーンで登場するのが、「ブルーイン・シアター」という映画館。

ウエストウッドにある映画館「ブルーイン・シアター」(撮影・喜久知重比呂)

1937年に開業し、今も営業を続けている。アールデコ調の歴史ある建物は、劇場建築の匠S・チャールズ・リーが設計したもの。1988年にロサンゼルス歴史文化記念碑に指定されている。

ウエストウッドにある映画館「リージェンシー・ヴィレッジ」(撮影・喜久知重比呂)

向かいにも歴史ある映画館がある。映画のなかでシャロン・テートが歩いて来る時に見える「リージェンシー・ヴィレッジ・シアター」。1931年の開業で、こちらも古い映画館。地中海をイメージして作られた高くそびえ立つ塔が特徴的である。

2つの映画館は、『ワンハリ』に登場したことを考えずとも、その雰囲気に訪れる価値がある。

映画では見事に1969年の街が再現されている。この辺りは古い建物がたくさん残っているが、再現にあたりCGを使わず、至る所に看板を設置して当時の車をずらりと並べた。タランティーノは、この映画の原点は、母親が運転する車のなかから見た当時の風景だと語っている。

『パルプ・フィクション』に登場したダイナー?

空港からロサンゼルス市内へ向かう途中には「パンズ」というダイナー(プレハブ式のレストラン)がある。店名の入った看板がひじょうに目を引く。名物のフライドチキンなどソウル・フードが食べられる。

イングルウッドにある「パンズ・ダイナー」(撮影・喜久知重比呂)

店は、イングルウッドという治安がよくない地区にある。ロサンゼルスの友人のひとりはこの辺りを怖がって、夕方以降は絶対に近づかない。私は、空港や歴史あるライブ会場もあるので、夜でも足を運ぶことがある。

イングルウッドにある「パンズ・ダイナー」(撮影・喜久知重比呂)

ここを『パルプ・フィクション』(1995)のオープニングに登場するあのダイナーだと思っている人が多い。ネットでも「『パルプ・フィクション』が撮影されたダイナー」として出てくる。しかし、ここはあの店ではない。撮影が行われたのは「ホーソン・グリル」という別の店で、残念ながら数年前に取り壊されている。

なぜ勘違いする人が多いかというと、1947年にジョージとレナという夫婦がロサンゼルスにダイナーを開いた。「パンズ・ダイナー」と「ホーソン・グリル」、どちらも2人が経営した、いわゆる姉妹店で、内装も同じような作りだからと思われる。『パルプ・フィクション』のオープニングの雰囲気を楽しむことができる。

LA最大のレコード・ショップ

ハリウッドにある「アメーバ・ミュージック」(撮影・喜久知重比呂)

映画マニアなタランティーノは、音楽マニアでもあることも有名。毎回作品で使う音楽にただならぬこだわりをみせる。映画が公開されると、そのサントラも大きな楽しみとなっている。

『レザボア・ドッグス』では「リトル・グリーンバッグ」、『パルプ・フィクション』では「ミザルー」をリバイバル・ヒットさせた。そんなタランティーノが音楽を探す行きつけの場所がある。

ロサンゼルスで最も有名なレコード・ショップで、ハリウッドにある「アメーバ・ミュージック」だ。バークレー、サンフランシスコに次いで2001年にオープンしたのがハリウッド店。1階には音楽ソフト、2階には映像ソフトが所狭しと並ぶ。

ここは、タランティーノに会えるかもしれない場所。この店でよく買い物をするというタランティーノは、毎回大量にレコードなどを購入していくという。

タランティーノ作品に登場する建物の共通点

アメーバ・ミュージックを出て、横断歩道を渡ったところに、見覚えのある特徴的な建物の映画館がある。

『ワンハリ』で、ディカプリオ演じる俳優リック・ダルトンが、ブラッド・ピット演じるスタントマン兼運転手のクリフ・ブースの運転する車で映画のプレミアに向かうシーンで登場する老舗映画館「アークライト・ハリウッド」。

ハリウッドにある老舗映画館「アークライト・ハリウッド」(撮影・喜久知重比呂)

1963年にオープンしたこの映画館は、ロサンゼルスの歴史的文化建造物に指定されている。スタッフ自らが上映前に観客に向かってわざわざ挨拶をしてくれる。

レザボア・ドッグスに登場する建物 (撮影・喜久知重比呂)

タランティーノの映画に登場する建物を見ていくと、現代劇であっても歴史ある古い建物がよく登場していることがわかる。その建物には、共通点があることがわかった。

『パルプ・フィクション』のダイナーも、『レザボア・ドッグス』のコーヒー・ショップも、ハリウッドの映画館も「グーギー建築」と呼ばれる建物だった。

「グーギー建築」とは、1940年代末〜1960年代半ばに主に商業施設で流行した建築のこと。建築家フランク・ロイド・ライトのもとで働いていたジョン・ラトナーが1949年に設計したコーヒー・ショップの名前に由来するという。特徴は、SFチックな丸屋根など、とにかく目につくデザイン。

ロサンゼルス空港 ザ・テーマ・ビル (撮影・喜久知重比呂)

「グーギー建築」のなかでも有名なのが、ロサンゼルスの空港に到着すると必ず目にするのが「ザ・テーマ・ビル」。1961年に建設され、もちろん、ロサンゼルの歴史的建造物に指定されている。タランティーノはこの建物の上にあった「エンカウンター」というレストラン(現在は閉店)がお気に入りで、よくここを貸し切ってパーティーを開いていた。

グーギー建築の建物が多く登場するタランティーノ作品。いつの間にか、映画によって再注目されるという文化遺産にも貢献しているのだ。タランティーノがロサンゼルスの街を愛しているからこそである。そんな彼の地元ハリウッドでまもなく開かれるアカデミー賞授賞式。注目である。

 

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