面接を受けに来たとんでもない人たち~元たま・石川浩司の「初めての体験」

面接でいきなり歯磨きを始める人も(イラスト・古本有美)

今回は僕が初めて面接をしたときの話をしたいと思う。と言っても面接を受けたときの話ではなく、審査する側になったときの話だ。

自分たちで作った会社

実は、僕は人生で一度も就職をしたことがない。つまり会社に入社したことがないのだ。しかし、会社を作ったことはある。「有限会社たま企画室」だ。

「たま」というバンドをやっていた頃に、マネージメントを他人まかせにしているとやりたいことが微妙に変わってしまうことに僕たちは気づいた。そこで、所属していた音楽事務所を辞め、自分たちのマネージメント会社を作ったのだ。メンバー全員で均等にお金を出し合って作った。

誰も社長にはなりたくなかったのでジャンケンで決めることにした。ただ、負けた者が社長じゃ縁起が悪かろうと、勝ち抜けにした。勝負は一発で決まった。ベースの滝本がビクトリーのチョキを出し、残りのメンバーは人間性そのままのパーだった。

こうして、「たま」のメンバー全員が取締役で、一般の社員の方が少ないという変わった会社ができたのである。

面接に現れる”とんでもない”人たち

会社を設立した後、社員募集をしたことがあった。

ファンの中には、「ただでもいいので働かせて下さい」と言ってくれる人も大勢いたのだが、そういう人はたいていメンバーの”追っかけ”だったりするので、逆に何かと問題が起きそうだった。そのため、社員募集は地元のハローワークみたいなところにだけ出していた。

面接は僕ら「たま」のメンバーが直接やるのもどうかと思ったので、メンバー以外の二人の社員が面接を行い、僕らは本棚の向こう側の見えない所にじっと隠れて聞き耳を立てていた。

そこで目の当たりにしたのは、面接を受けに来る”とんでもない”人たちだった。

最初に面接をした男性は強烈だった。「それではそこにお座り下さい」と社員が促すと、「ちょっと待って下さい。歯はどこで磨けますか?」と聞く男性。社員が、「えっ、歯磨きですか? えーとそこの流しのところなら・・・」と答えると、その男性は歯を磨きだした。

シャコシャコシャコ。静かな事務所内に男性が歯磨きをする音だけが響く。面接に来て、社員と会話もせずにいきなり歯を磨き始める奴がいるか~。不採用!

次に現れた男性は、ちゃんとイスに座ってくれた。しかし、社員が「自宅から会社まではどのくらい通勤時間がかかりますか?」と聞くと、一瞬の沈黙の後、「答える必要はない!」。

おいおーい、ここに喧嘩を売りにきたのか!?しかも答えづらいプライベートな質問ならまだしも、こちらは通勤時間を聞いているだけだぞーいっ! 急な仕事が入った時、すぐに事務所に来られるかどうかを知るためにも、通勤時間を把握しておくのは重要なことなのだ。ということで不採用!

その次にやって来たのは、たくさんのチェーンキーをチャラチャラさせている男性。「なあんかぁ、業界のぉ、仕事ってえのもぉ、カッコイイかなぁ、とか思ってえ~」と、軽薄を絵に描いたような奴だった。

あのねぇ、「業界」と言っても実際はファンクラブ会員の整理や物販の発送など、机に向かっての事務仕事がほとんどだぞ。華やかな芸能界のスターに囲まれると思ったら大間違い。こちとらアングラバンドだ。現場に出る仕事があったとしてもせいぜいライブハウスに来たお客さんの整理や様々なクレーム処理だぞ。無理だな。これまた不採用!

能力だけでなく人柄も

他にも真面目過ぎて残念ながら落とした人もいた。その人は、9時~17時のキッチリした仕事を念頭に置いているようだったが、この仕事は時間や仕事内容が不規則でアバウト。時には深夜まで現場にいなければならないこともある。なので務まらないだろと考え、残念ながら不採用にした。

このように人選は困難を極めたが、なんとか採用する人を決めることができた。明らかに”おトンマ”な感じではあったが、誰からも好感を持たれるような女性を選んだ。その人とは、20年以上経った今でも、プライベートで一緒に遊ぶことがある友達だ。

それにしても、世間では「変わり者の集まり」と思われがちな僕らだが、面接に来た人たちを見ていると、「意外と自分たちってまともなのかも?」と思った。世の中には”とんでもない”やつらが思った以上にいるのだ。

雇われる側は、その人の意向でさっさと辞められる場合もあるだろうが、雇った側としては、正当な理由がなければ辞めさせるわけにはいかない。慎重に、能力だけじゃなく、人柄なども見て総合的に判断しなければならないのだ。

このコラムを読んでいる人の中で、これから面接に行くという人は、歯磨きだけは自宅で済ませてから向かうようにね!

 

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