売れないフリーライター、フォークリフトの運転技術を習得する

(Photo by Getty Images)

ライターの仕事だけで、この先も食べていけるのか不安になったので、フォークリフトの免許を取ってみることにしました。調べ始めてすぐに分かったのは、フォークリフトに「免許証」はないことでした。

実際、テキストの冒頭に書いてあるのです。「フォークリフトは『機械』です」と。つまり「車ではない」のです。受講したあとでもらえるのも「免許証」ではなく「修了証」です。車でないのなら「免許」がなくても操作できるのでは……と思うのですが、そうもいかないようです。ちゃんと法律(労働安全衛生法)があるのです。

「あの北欧家具チェーンで働けるかも」夢だけが広がる

フォークリフトを運転できるようになりたいと考え始めたのは、将来に対する不安からでした。40歳を超えた今、ライターとは別の仕事でも食べていけるよう準備しておきたかったのです。リフトなら体力がなくてもなんとかなりそうだ、もしかすると、おしゃれな北欧家具店で需要があるかも……と夢想していました。ただ、運転できたとして、未経験、40歳すぎのおっさんにできる仕事があるのかどうかは、未知数のままでした。

詳しく調べると、受講料は4万円ほど。期間も数日で済むこともわかりました。面白いのは、普通自動車の免許を持っていると、講習期間が短くなることです。「車ではない」はずなのに「車が運転できると短縮される」のです。矛盾してるようですが、リフトには運転して車体を移動させるパートと、フォークで物を運んだり置いたりするパートがあるので、まあ分からないでもありません。書類を用意し、受講を申し込みました。

初日は「学科」の講習です。配送センターに隣接するビルの一室が会場です。受講生は二十数人。見た感じ、ほとんどが20代ですが、30代らしき人や、筆者のように40代と思われる人もいました。女性も数人いました。講師が「会社のお金でここに来ている人!」と質問すると、3分の1ほどが手を挙げました。勤務先で受講を勧められて来た人がいることを、このとき初めて知りました。ちなみにほとんどの人が「出勤扱い」になるそうです。

講習は朝9時から18時まで。朝早く家を出たこともあって、昼を過ぎると眠くなりました。思わずウトウトとしかけたとき、近くの席の受講生が居眠りを指摘され「やる気がないなら帰れ!」と叱られました。この受講生は会社のお金で来ている人だったので、帰るわけにいきません。筆者も気合を入れ直しました。

学科では、フォークリフトの種類や構造などについて学びました。重いものを運ぶため、力学の知識も必要になります。以前、市場で見かけて「『ミニオン』みたいだな」と思ったリフトが、ガソリンではなく、ガスで動くタイプだと知ったのもこの日でした。

「ミニオン」みたいなフォークリフト後部(画像の一部をモザイク処理しています)

自動車との運転感覚の違いに四苦八苦

2日目から4日目までは、実技講習です。筆者のグループは6人。うち2人が女性でした。講習を受ける広場に入ると、踏まれたりぶつけられたりしてベコベコにへこんだ三角コーン(パイロン)が目に入りました。「みんな不器用なんだなぁ」とほほ笑ましく思っていましたが、実際にリフトに乗ると、なぜそうなるかがわかりました。

自動車ではカーブを曲がるとき、後ろのタイヤを意識します。後輪が前輪より内側を通るため、角にぶつからないよう注意します。しかしリフトは自動車と逆に、カーブでは前輪が後輪の内側を通ります。極端な表現をすれば「前輪さえ曲がれれば、曲がれてしまう」のです。

しかし、車を運転する感覚が身に染み付いていると、カーブを大きく曲がりがち。結果、前輪がパイロンにぶつかったり、コースを外れたりしてしまうのです。また、リフトではハンドルを片手で操作するように言われます。自動車の講習所では、必ず両手で持つよう教わったので、この点でもとまどいました。仕事で自動車にもリフトにも乗っている人のすごさがよく分かりました。

それでも少しずつ操作に慣れ、車体を前後に動かすときの「前ヨシ! 後ろヨシ」の指先確認も忘れず、大きな声で言えるようになり「2段積み取り」という、リフトのフォークを使って、荷物をずらすテクニックも使えるようになりました。

最終日の朝。駅から会場に向かって歩いていると、同じ受講グループの男性に話しかけられました。ここまで他の受講者との交流は、朝と帰りのあいさつぐらいでした。筆者は「いつか使えるかも」という浅はかな考えで講習を受けていたので、他の受講者に対して後ろめたい気持ちもあったのです。

男性は「お仕事はなんですか?」と質問してきました。ライターと言うと、説明が長くなりそうだったので「フリーターみたいなものです」と答えておきました。すると男性は、名刺を1枚くれました。「よろしければ仕事を紹介しますよ」と言うのです。男性は、派遣会社の営業担当者でした。物流メーカーなどと取引があり、リフトを使える人を派遣することがあるため、見識を広げるために受講しにきたとのことでした。

数日間、同じグループで順番にリフトを操作しているので、お互いの技量はなんとなくわかります。男性はそのうえで、こんなおっさんを「スカウト」してくれたのだと思うと、うれしくなりました。もしかすると、本当にフォークリフトを使う仕事に就くことができるかもしれない。希望が見えてきた気がしました。

おかげで自信がついたのか、その日の講習のあとで行われた最終試験にも受かり、無事「フォークリフト運転技能講習修了証」を手にすることができたのでした。おっさんは、新たな1歩を踏み出しました。

 

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