プロ野球のコーチが経営学を学んで気がついたこと 「学び直し」の意義

「学び直し」を選択した塚本さん

ひとり時間をリカレント教育(学び直し)にあてて、キャリアチェンジを図る社会人にインタビューをするこの企画。今回紹介するのは、中日ドラゴンズのコンディショニングコーチとして活躍する塚本洋さん(44歳)です。

大学卒業後、松下電器(現パナソニック)でのコーチを経て、中日ドラゴンズに入団した塚本さん。コーチとして10年間働いた後に、さらなるステップアップのため、通信制の大学で経営学を学びました。経営を学んだことで、コーチの仕事に大きな変化があったといいます。そんな塚本さんに話を聞きました。

「チーム強化」のため経営を学ぶ

ーー塚本さんのこれまでの経歴について教えて下さい。

塚本:小学校からずっと野球を続けていました。プロ野球選手になることを目指していたのですが、高校に入学後、ひとつの転機を迎えました。自分の技術とまわりの技術を比較して、自身の能力ではプロ野球選手になることは厳しいと感じたのです。

しかし、なぜそうなったのか。体の問題なのか、技術練習方法に問題があったのか。いろいろと疑問を覚えるようになり、「人間の体の仕組み」を根本から学びたいと思いました。そのような流れで、大阪体育大学の体育学部に進学します。

ーーそこでコーチの道に進むようになるのですね。

塚本:現在の道を選ぶきっかけは、大学1年生の時に訪れました。野球部の監督のアドバイスで、学生トレーニングコーチに就任しました。もともと将来はこのような仕事に進み、野球には関わり続けたいと思っていたので、早い段階で選手を引退し、指導に専念する道を歩もうと思ったのです。

大学の卒業後は、松下電器(現パナソニック野球部)のコンディショニングコーチとなり、5年後の2003年に、中日ドラゴンズのトレーニングコーチに就任しました。ドラゴンズでは、おもに二軍の選手の指導を担当しています。

ーーその後、学び直しのために通信制の大学に進みますね。

塚本:入学したのは、2012年の春です。プロ野球の世界に入ってから10年という、節目の年でもありました。この先の10年を考える上で、自分をレベルアップさせるためには何かをする必要があると感じていたのです。そこで浮上したのが、ビジネス・ブレークスルー大学に進むという選択肢でした。仕事に影響なく、すべてオンラインで学習ができるからです。

ーー大学では経営を学ばれたということですが、少し意外に思いました。

塚本:実際、同業者の中には筑波大学の体育学部など、健康やスポーツを学ぶ大学院に進学する人も少なくはありません。その主だった目的としては、トレーニングの専門性を高めることにありますが、僕には自身の職務でもある、「チームの強化」を学びたいという思いがありました。

では「チームの強化」のためには何が必要なのか。改めて考え直すと、カギとなるのは「経営」だと思いました。もともとは松下電器(現パナソニック)出身であるということもあり、松下幸之助さんの書籍や関連するビジネス書も良く読んでいたのですが、そうした過程で強いチームづくりと、経営を学ぶことが結びついていったのです。そこで「経営」の観点から組織づくりを学ぶことのできる大学を選んだのです。

ビジネスの視点から野球を問い直す

練習中の一風景

ーー大学での学びは、どのようなメリットを得られましたか。

塚本:たくさんありますが、ひとつに問題を解決する力ですね。大学では「問題解決基礎」という授業があるのですが、問題に向き合う際の第一歩として、まず考えられる問題点をすべて洗い出すという作業が求められました。

これはたとえば、故障選手のリハビリにも応用が可能になります。これまでは、肩を痛めた選手であれば肩を治すということに焦点を当てがちでしたが、肩を痛めた原因には何があったのか、腰や首といったほかの体の箇所に問題があって、それが肩の痛みに影響したのではないかという風にも考えるようになったんです。こうした目線は、選手のリハビリのみならずトレーニングにも奏功しました。

また、当初の目的でもあった、経営の視点が身についたことが大きいですね。野球もやはりビジネスですから、選手という「商品」をいかに魅力的に見せるかは大きいと感じるようになりました。単に技術的な部分で選手を伸ばすだけではなく、取材をしてくださるマスメディアの方や、応援してくださるファンの方にどう売り込んでいくかといった観点は重要です。

選手自身もそうした「人の目」を意識することによって、自分も成長することができると伝え、選手たちの中にも意識改革が生まれました。このように経営を学ぶことで、選手をどう技術的に向上させるかに留まらない、いわゆるプロデュースの視点を持つことができたんです。

ーー選手の指導において、変化した点は何がありましたか。

塚本:技術の指導ももちろんですが、精神面でのケアをより入念に考えるようになりました。卒論ではそうしたことをテーマにしました。中日にはベテランの選手が多く、監督やコーチ陣にも実績のある方が多いため、若い選手はなかなか自分を出せず、委縮してしまうような状況がありました。高卒の選手は技術的にも、大きな伸びが見られなかったのですが、それは心理的なプレッシャーが作用しているのではないかという仮説を立て、その検証に取り組みました。

本質的なコミュニケーションを身につける

選手に指導する塚本さん

ーーその検証ではどんなことがわかったのでしょうか?

塚本:検証の過程で、仮説の通り、高卒の選手はとくに対人関係に強いストレスを感じていたことがわかりました。他球団よりも中日はプレッシャーやストレスを感じる度合いが強く、また自分自身も選手たちにそうしたプレッシャーをかけていたことに気づいたのです。

また、高卒の選手は、親元を離れたことによるストレスもあるので、そうした部分もケアをする必要があるということに気づきました。そして、あらためてコミュニケーションの取り方について考え直し、心理学の先生にも相談しました。そうして、選手へのリスペクトの姿勢を大事にして、一人ひとりに向き合うようになったのです。

当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、精神面でのケアというのも、求められるのはあくまで論理的なアプローチです。ただなんとなく励ますのではなく、何がその原因になっているのか、どういう向き合い方がベストかなど、より本質的なコミュニケーションを意識するようになりました。

――今後の目標を教えていただけますか。

塚本:結果を出せるコンディショニングコーチでありたいと思います。結果というのは、先ほどもお話ししたように技術のみではない、より総合的な能力の向上ですね。既存のあり方で満足せず、選手の資質などを加味し、一人ひとりに合わせた指導を行っていきたいです。

また、一人ひとりが成長できたら、次のフェーズとして永続的なシステムの構築を目指したいと思っています。僕がいなくなっても、そうしたシステムが回り続けることが理想です。

「学び直し」を選択した塚本さん

 

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