包丁の選び方と長く使い続けるための秘訣(ひとり調理道具のススメ)

包丁の切れ味によって、食材の味が変わることも

数ある調理道具の中でも、欠かせないものといえば包丁。ひとり暮らしのキッチンにも、たいてい1本はあると思います。普段何気なく使っている包丁ですが、切れ味が悪いと作業の効率が落ちてストレスになったり危険なだけではなく、食材の旨味を逃してしまうこともあるとか。そこで、包丁マイスターである貝印株式会社の林泰彦さんに、包丁と砥石のお話をたっぷりとお伺いしました。

一般的な洋包丁は両刃タイプ。写真の三徳包丁は万能で扱いやすいのが特徴

包丁を選ぶ際の3つのポイント

毎日のように使う包丁。せっかくならば質のよいものをセレクトしたいものです。そこで、林さんに包丁を選ぶ際のポイントを伺いました。

ポイント1 目的に合ったものを選ぶ

「まず1つ目は、目的に合ったもの選ぶということです。包丁は、三徳包丁や牛刀包丁のようないわゆる万能包丁から細かい作業が得意なペティナイフ、魚をさばくための出刃包丁など、実に多彩な種類があります。その中から、自分の使い方に適した包丁を選ぶことが大切です」(林さん)

ポイント2 自分に合ったサイズ感を意識

「自分の体格に合わせたサイズのものをセレクトするのがよいでしょう。例えば出刃包丁の場合ですが最適なサイズを確かめる一例として、刃渡りが手の平の縦の大きさに合ったものを選ぶのがよいという説もあります」(林さん)

ポイント3 包丁の品質をチェック

包丁がよく切れるだけでなく、切れ味が継続する期間が長いものが、質のいい包丁だと林さんは考えます。

「よくお客様から聞かれるのが『研がなくてもいい包丁はありませんか?』という質問なのですが、メンテナンスが楽な包丁、つまり刃持ちがいい包丁を求められているのだと解釈しています。刃持ちのよさは包丁の鋼材の品質や製造工程の精度など、いくつかの要素によって決まります。そのため、購入した当初はそれなりに切れるのに、使い始めるとすぐに切れ味が落ちてしまうものもあります。高品質な鋼材や製造工程の精度の維持にはコストがかかるので、質のよい包丁はそれなりに高い金額になる場合が多いです」(林さん)

また、刃が適切な角度についていることも、包丁の切れ味やその持続性の向上につながります。

使い終わった包丁は、すぐに洗って乾かすこと

包丁に使用される主な素材にはステンレス刃物鋼と鋼がありますが、現在ではほぼステンレス刃物鋼が主流になっています。ただ、どちらも金属なのでサビという問題がつきまといます。

「一般的にステンレスはサビにくいイメージですが、絶対にサビないというわけではありません。サビを発生させないためには、よく洗って、よく乾かすことが基本です。ステンレスの包丁であれば、その方法を守れば十分だと思いますが、鋼はとてもサビやすいので注意が必要です。長期間使わずに保管する場合は、洗って乾かした後に、薄く油を塗っておくといいでしょう。油が膜を作るのでサビ予防に効果が期待できます」(林さん)

私がよくやってしまうのが、使い終わった包丁をステンレス製の洗い桶に入れたままにしておくこと。林さん曰く、それは「あまりよくない行為」だそうです。その理由は、ステンレス同士が触れ合っていると「貰いサビ」の原因になってしまうから。特にひとり暮らしの人は洗い物を溜めやすい傾向にあると思いますが、せめて包丁だけでもすぐに洗って乾かす習慣を身につけたいものです。

また、塩素系の漂白剤を使用するとステンレス表面の酸化保護膜を破壊し、サビの発生を促進してしまうので良くありません。

包丁の資質を引き出すのが角砥石

私の家では、角砥石と同じ機能をより手軽にできるという理由から簡易シャープナーを活用していますが、プロの目から見ると両者の特性は少し違うようです。

「簡易シャープナーはどちらかといえば利便性に重点を置いたアイテムで、どなたが使ってもある程度の切れ味が保証されるものです。ただ、簡易シャープナーだけでは包丁の能力を出し切れていません。一方、角砥石は、包丁が持っている素質を引き出すための道具です。普段はササッと簡易シャープナーでお手入れをして、必要に応じてきちんと角砥石を使って包丁の能力を引き出す、というように臨機応変に使い分けるのがおすすめです」(林さん)

角砥石は大きく分けて2つのタイプがあり、天然砥石と人造砥石に分類されるそうです。林さんのおすすめは人造砥石。天然砥石に比べて品質も一定で、コストが安いことが利点です。

人造砥石。粗さの異なる二層構造になっている砥石もある

砥石は粒子の粗さによって分類される

「人造砥石は、多くの場合研磨材の粒子である『砥粒』を粘土状の結合材に練りこんで焼いて固めたもの。その粒子の粗さによって種類が分かれます。粗さは『番』という単位で表すのですが、私の知る範囲では市場には包丁用として概ね120番くらいから3万番くらいまでの砥石が存在します。番手の数値が大きければ大きいほど繊細な研ぎが可能で、小さいほど大きく削ることができます」(林さん)

番手は「♯」で表示されます。砥石の箱を見ると、品質表示部分に「♯1000」や「#400」などと記載されていますが、この意味が分かれば、粒子の粗さがひと目で理解できます。

「だいたい120番から500番くらいまでを荒砥石、1000番前後のものが中砥石(中仕上砥石)、3000番以上になると仕上砥石と、大まかに分類されています。荒砥石は削る能力が高い分、少し研いだだけで包丁自体も削られて短くなってしまいます。刃先に欠けやこぼれなどがなければ、中砥石だけでも十分にカバーできるでしょう」(林さん)

砥石の粗さが記載されている。GCは「グリーンカーボランダム=緑色炭化ケイ素」という砥粒の材質を表す

包丁が当たる「まな板の音」に注意!

「包丁を長く使い続けるためには、『雑に扱わない』ことが大前提です。刃先は非常にデリケートで、使えば使うほど切れ味は落ちてきます。特に食材の切り方には注意が必要です。『トントントン』と包丁がまな板にあたる音がする時は包丁がダメージを受けていると言われています。まっすぐ下におろすのではなく、『スッスッスッ』と小さな音が出る程度にすべらせながら切る方が、ダメージは少ないと考えられています」(林さん)

質の悪い包丁は切れ味が落ちるのが早く、質のよい包丁でも粗雑な扱いをすれば当然切れ味が落ちるスピードも早くなります。料理を効率よく、ストレスフリーに楽しむためには、質のよい包丁を使い、丁寧な扱いを心がけることがポイントです。

包丁マイスターの林泰彦さん。貝印商品を展開し専門知識を備えたスタッフが常駐する「kai shop」や貝印の資格制度である「マイスター制度」の責任者。現在は「マイスター制度」に携わるとともに、国内はもとより海外でも包丁研ぎのセミナーやデモンストレーションに登壇、Twitterの包丁研ぎライブ動画では5.8万人の視聴者を獲得するなど、包丁研ぎ界の巨匠として活躍中。

 

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