包丁の資質を引き出す、正しい研ぎ方(ひとり調理道具のススメ)

切れ味のよい包丁は力を入れなくてもこの通り

サクッと手軽に作りたい「ひとり料理」ですが、特に手間がかかるのは材料を切る段階ではないでしょうか。だからこそ、その大役を担う包丁の切れ味をよい状態に保っておけば、調理はもっと楽しく、効率もアップします。そこで、包丁マイスターである貝印株式会社の林泰彦さんに、一般的な両刃の洋包丁(三徳包丁)の正しい研ぎ方をお伺いしました。普段は簡易シャープナーを使っている方も、砥石を使った研ぎ方をマスターすれば、包丁のポテンシャルをもっと引き出すことができそうです。

包丁研ぎに必要なもの 〜準備編〜

包丁研ぎに必要なもの

用意するもの

1. 研ぐ包丁

2. ふきん(こぼれた水や包丁を拭くもの)

3. 水を入れた容器(ボウルでもバケツでも砥石が水に浸せる大きさと深さがあればなんでもOK)

4. 砥石

5. 面直し用砥石

6.新聞紙 (デニムのような布でもOK)

7. スポンジ(必須ではないがあると便利)

8. 鉛筆(必須ではないがあると便利)

「まず最初に、水を入れた容器の中に角砥石と面直し用砥石を沈めましょう。泡が出てくるので、泡が出なくなった状態で使います。目安としては10〜15分くらいでしょうか。水中に長く浸ける分には問題ありません」(林さん)

ただし、砥石によっては水に浸す時間など準備の仕方が違うものがあるのでその砥石の取扱説明書を確認してください。

砥石を水に浸すと、細かな泡が出てくる

【研ぎのポイント1】砥石に対する刃の角度をブレさせない

「包丁を研ぐことは、刃先を削り直して尖らせることが目的です。しかし間違った角度のまま研いでしまうとうまく尖りませんから、刃の角度をブレさせないことが重要です」(林さん)

刃の角度をブレさせないためのポイント

・砥石に対して包丁を斜めに置く

・包丁の峰(刃の背中部分)を押さえる

・包丁全体を包み込むように持つ

包丁の峰を押さえることで包丁が安定する

「包丁の峰を人差し指で押さえます。親指はアゴと呼ばれる位置を押さえます。その際は親指が刃先に触って怪我をしないようご注意ください。刃を当てる角度が重要です。一般的に使いやすい刃を付けるには砥石に対して約15度の角度。それを測るために小指を使います」(林さん)

砥石に対して約15度を測るには

・男性など指が太めの方の場合、「小指の爪まで」を砥石と包丁の背の隙間に入れる

・女性など指が細めの方の場合、「小指の第一関節まで」を砥石と包丁の背の隙間に入れる

小指の先を使って約15度を測る

「正確に15度ではなくても、研ぎ始めた角度を研ぎ終わるまで一定に保つことの方が大切です。小指を目安にすれば、常に同じ角度をキープできます。角度が決まったところで、いよいよ研ぎに入っていきましょう」(林さん)

研ぐ時のスタイル

・砥石に刃を当て、砥石の横幅の中央辺りと刃がクロスした部分を押さえる

・指は2本で、刃先近くに置く(砥石に触れないように注意)

・縦の幅をいっぱい使って研いでいく

・研いでいる刃先の状態を確認するために、包丁に付着した泥はスポンジなどで落とす

・砥石についた泥は研ぎをスムーズにするために必要なので落とさない

「包丁を研ぐ時は、撫でる+腕の重さが包丁にかかる程度でOKです。逆にゴシゴシと強い力を加えると、角度が安定しなくなってしまいます。また、押さえる方の指は包丁の峰側に置くとグラついて角度が変わりやすいので、砥石と刃のギリギリの部分を押さえるようにします。ソリと呼ばれる刃がカーブしている部分は、研ぐ間隔を短くして少しずつ研いでいくとよいでしょう」(林さん)

包丁を研ぐ時の正しいスタイル。常に角度はキープ!

【研ぎのポイント2】研ぎ終わりの目安は「刃返り」が出るまで

「包丁を研ぐ際は、『研ぎ終わりのタイミング』を見極めることが大切です。それは刃先をチェックすれば判断できます」(林さん)

研ぎ終わりの目安

・刃先が必要な分削れると、研いだ面の反対側に刃返り(マクレやバリとも言う)が発生する

・刃返りを確かめるには、人差し指・中指・薬指の3本を使い、包丁の峰から刃先に向かってしゃくるように触れる(その際は手を切らないように充分気をつけてください)

・触れた時に、髪の毛1本分くらいのジョリジョリとした引っ掛かりが感じられれば刃返りが発生している証拠

・引っ掛かりが弱い部分はまだ研ぎが足りていないので、引き続き研いでいく

・包丁全体にまんべんなく刃返りが出ていればOK。研ぎ過ぎはよくないので要注意

指三本を使い、刃返り(引っ掛かり)を確認する

【研ぎのポイント3】反対側も研ぐ

「両刃の包丁は反対側も研ぐ必要があります。どうやって研ぐのかといえば、単純にひっくり返して、これまでと同様に研げばいいのです。ただ、向きが変わるため指の配置を調整する必要があります。包丁の峰は親指で、刃先は人差し指で押さえると持ちやすいですよ」(林さん)

包丁の向きを変えたら、小指を使って角度をチェック

「柄に近い刃元の部分を研ぐ際、砥石に柄がぶつかってしまうことがあります。その場合は包丁を真横にして研ぎましょう。ただ、真横にすると角度がブレやすいので峰を押さえて安定させるとよいです」(林さん)

柄の付近の刃先は研ぎにくいため、包丁を真横にして研ぐ

【研ぎのポイント4】刃返りをしっかり取り去る

「刃返りをそのままにしておくと切れ味は悪いままなので、しっかり取り除くことを忘れないようにしましょう」(林さん)

刃返りの取り除き方

・包丁全体に刃返りが出ていることを確認する(刃返りの感触が弱い部分があれば研ぎ直す)

・新聞に包丁を当て、横にスライドさせる

・角度は砥石に当てた時と同様に15度くらいを目安にし、最後に少ししゃくるようにする

・同様に反対側もしっかりと行う

・両側から刃先を触り、引っ掛かるような感触がなくなればOK

刃返りを取る際は、新聞紙をテーブルの縁に合わせると作業しやすい

【研ぎのポイント5】砥石のメンテナンスも忘れずに

「包丁を研ぎ終わったら砥石についた泥を水に流しましょう。この泥の正体は、包丁と砥石が削られて出てきたもの。つまり、砥石の表面もすり減っているということです。へこんだままの砥石で包丁を研ぐと角度が安定しないので、せっかくの作業も意味がありませんから、包丁を研いだら砥石のメンテナンスも必ずセットで行いましょう」(林さん)

砥石のメンテナンス方法

・使い終わった砥石の表面に鉛筆で印をつける

・砥石に、面直し用砥石を当て、全体を均一にこすっていく

・鉛筆の印が残った部分はへこみがあるサイン。印が消えるまでこすっていく

(ここで注意したいのは印の部分だけをこすらないこと。あくまでも全体をこすって印を消すことで砥石はフラットになります)

面直し用砥石は、言わば「砥石の砥石」。砥石全体に当ててこすっていく
鉛筆で書いた印が残っていると、へこみがある証拠

「切れ味が悪くなった」と感じたら、包丁研ぎのタイミング

最後に、包丁を研ぐタイミングについて林さんに伺いました。

 

「『食材の切れ味がなんとなく悪くなったな』と感じた時が、包丁を研ぐタイミングだと思ってください。具体的な目安としては、トマトを切る際に、少し圧をかけたら皮が押し下がりプツンと切れるような状態だと、だいぶ切れなくなっている証拠です。切れない包丁はケガをしやすいですから、早めに切れ味を復活させましょう」(林さん)

 

この取材の後、私も自宅で包丁を研いでみましたが、切れ味の変化に驚きました。力を入れなくても食材がサクサクと切れ、スムーズに調理することができました。また、包丁を研いでいる最中は無心になり、研ぎ終わった後はスッキリとした気分を味わうことができたのも発見でした。包丁研ぎは、精神安定効果をもたらす贅沢な「ひとり時間」なのかもしれません。

研いだばかりの包丁で切ったトマト(左)と、切れ味の悪い包丁で切ったトマト(右)。切断面の美しさがまったく違う
包丁マイスターの林泰彦さん。貝印商品を展開し専門知識を備えたスタッフが常駐する「kai shop」や貝印の資格制度である「マイスター制度」の責任者。現在は「マイスター制度」に携わるとともに、国内はもとより海外でも包丁研ぎのセミナーやデモンストレーションに登壇、Twitterの包丁研ぎライブ動画では5.8万人の視聴者を獲得するなど、包丁研ぎ界の巨匠として活躍中。

 

特集

TAGS

この記事をシェア