「ひとり飲み」を始めた理由とこれから 「ひとりでぼーっとしている時間が貴重」

何も考えず、周囲に溶け込んでいるような「ひとり飲み」の時間(イラスト・古本有美)

すっかりひとりで飲むのにも慣れた。かつては、酒は誰かと楽しくやるために飲むものだったので、ひとりで飲むならファンタでもいいとさえ思っていたが、いつしかひとりで飲むのにもすっかり慣れ、それどころかむしろ率先してひとりで飲みに行くほどにまで変わった。

でも、そもそもひとりで飲むようになったのはどうしてだろうと、ふときっかけを考えてみた。そして、思い当たった。おそらく、誰かを待つという経験を重ねて、ひとりで飲む時間を徐々に育んできたのだと。

きっかけは怪我の功名のようなもの

誰かとお店で待ち合わせして飲むとき、相手が遅れることがある。それも5分、10分ではなくて、仕事でちょっとした緊急事態が起こったりして1時間くらい遅れることだってある。

そんなとき、先に入ったお店で、仕方ないからひとりでちびちびと飲み始める。いずれ相手が来るからそんなにたくさん頼むことはないけど、それでも何もないのはせつないし、お店にも悪い気がするので、ちょっとしたものを頼んでゆっくりと飲む。

そんな経験を、2回、3回と重ねていくうちに、ひとりで飲むことにも慣れてくる。それどころか、好きなものを頼んでゆっくりと自分のペースで進められるので、なかなかいいものだと気がつき始めてくる。

そのうちに、むしろひとりでゆっくりとやりたい気持ちが高まってきて、とうとうひとりで暖簾(のれん)をくぐるようになる。

いったんひとりに慣れてしまえば、こっちのものである。何を頼むのも自由だし、すべてを自分のペースで進めることができる。たとえるなら、ずっと家族と暮らしていた人が、初めて一人暮らしをするときに感じる「これからは何もかもが好きにできるぞ!」という解放感に近いかもしれない。

ひとりで行きたいお店をリストアップする

そうこうするうちに、いつの間にか「今度はひとりで行きたいお店」リストが頭の中に作られていく。

誰かと一緒に飲みに行ったとき、ここはひとりでも居心地がよさそうだとか、相手に合わせて今日は頼まないけれど、かなり気になるメニューなんかを見かけた時など、「今度はひとりで来てみよう」と思うことが増えた。今では、誰かと初めて行くお店を、ひとりでも来たいと思えるかどうかという基準でも見るようになってきている。

また、幸いなことにひとり飲みも市民権を得たのか、この頃は雑誌の特集なんかもちらほら見かけるので、気になる店をメモしていく。こうして、ひとりで飲みたいお店リストが積み重なっていくのだ。

ひとり飲みの過ごし方が変わってきた

ひとりで飲むことにもすっかり慣れてきて、時間の過ごし方にも変化が表れてきたように思う。以前はどうも手持ち無沙汰になってしまうことが多く、そうかといってスマホをいじるのはなるべく避けたくて、無理やり本を読んだり、メモに書きものをしたりしては、酔いがまわってわけがわからなくなることをくり返していた。

だがこのごろはいくぶん達観してきたのか、何も考えず頭をぼんやりとさせながら、お店の雰囲気や時間の流れに身をまかせ、お酒をゆっくり味わうことができるようになってきた。

要するに、ただぼーっとしているだけである。

これは、以前はなかなかできなかった。何かしていないともったいないという思いからか、自意識が勝ち過ぎていたのかはわからないが、とにかく何かをしていないと間がもたない感覚があった。

それが今では、お酒と料理をちびちびと味わいながら、ただひたすらその場に漂っているような感覚でいられるようになった。温泉にのんびり浸かっている感じに近いと言えるかもしれない。

これを進化と呼ぶか、退化と呼ぶのかはわからないけど、ひとり飲みの時間を心から楽しめるようになってきた気がする。起きてから寝るまで、毎日慌ただしいというか、スマホのせいもあっていつも何かを見たり考えたりし続けているので、何も考えず、周囲に溶け込んでいるような時間は、わりと貴重なのである。

カフェではなかなかこうはいかない。そこはやはりお酒の力も大きい。

ひとり飲みは人生にとって「必要な無駄」時間

人生には無駄が必要、というか、何が無駄なのかそうじゃないのかは最期までわからないと思っている。そんな自分にとって、ひとりで飲みながら頭を空っぽにするこの時間は「必要な無駄」とでも呼ぶべき存在であり、これからも粛々と続けていくであろう。

おそらく年を経るごとに、ますます己の意識が遠のき、周囲に同化していく感覚を掴めるのでないかと期待し、歳をとるのも悪くないと思っている。

ただ、唯一惜しむらくは、歳とともに胃袋のキャパシティが縮小傾向にあり、一度に食べられる品数が徐々に少なくなっていることである。まあその分、お酒を多く飲むことで、なるべくお店には還元したいと考えている。

 

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